経絡、ツボ(経穴)とは何か

黄葉

以前にも紹介しましたが、2018年にイギリスの医師であるDaniel Keownが著した「The Spark in the Machine(閃く経絡、医道の日本社)」が出たときは、鍼灸医学と西洋医学との関係について述べ、長年の謎であった経絡、経穴(ツボ)とは何かについて、かなり真相に迫る内容として鍼灸界で大きな話題になりました。今回はこの本の内容について概説したいと思います。

1.ファッシアとは

筋膜のところでの説明と重複しますが、臓器を包んだり、臓器と臓器の間を埋めたりする結合組織のことで西洋医学ではほとんど注目されていませんでした。

ファッシアはそれぞれの臓器の輪郭をはっきりし、内部に閉じ込める役割をします。ファシアのうち筋肉を包んでいるのが筋膜になります。

図1.筋膜の構造

東洋医学では「三焦」という臓器がありますが、解剖ではそのような臓器は存在しません。

「三焦は臓器ではなく、胸部、腹部、骨盤にできたコンパートメント(仕切り)ではないか、同じく東洋医学でいう「心包」というのは心臓を包む心膜ではないか」と述べています。

2.氣の流れ

東洋医学の経絡は14あり、指先や足先から始まり内臓に終わるもの、足の趾から始まり、おなかや肺を通り顔・頭に行くものなどがあり、どうしてこのような流れがあるのか解剖学では説明ができませんでした。

ファッシアの主成分はコラーゲンで物が変形するときわずかな電流を発生させる圧電性の特性(ピエゾ効果)があり、伝導性も持ちます。ファッシア面の間にある液体は電気を非常によく伝導します。クローン羊を作ったとき研究室ではわずかの電気量を使って細胞を成長させることができたということです。氣とは各細胞で作られたエネルギーで、細胞の間をつなげる力であり、細胞が行う仕事そのものすなわち全代謝の合計=生命の力と考えられます。氣は発生のエネルギー、協力的なエネルギーなのです。氣とは臓器の機能の総和であり、氣は臓器が持つ組織化のエネルギーの強さである。と説明しています。

図2.気


発生学では皮膚と神経系を形成する外側の部分(外胚葉)、消化器と分泌腺を形成する内側の部分(内胚葉)(卵黄嚢)、その他、血液、骨、筋膜、筋を形成する中間の部分(中胚葉)に分けることができます。卵子という一個の細胞が何億もの細胞に分化し色々な組織になっていくのですが、発生過程を折り紙で例えると、1枚の紙(一つの細胞)から複雑な折り紙作品(膨大な細胞=生体)になるには膨大な折りたたみが必要で、関連した細胞群が一つの流れになると考えられます。

図3.一枚の紙を何回も折って折り鶴ができる

一個の卵細胞から膨大な細胞分裂をし生体になることから、ファッシアを考えると、腕や足の経絡を通って外側に出て、内臓に接続する体内の氣の流れを説明できます。

経絡に関する証拠が見つからないので、西洋医学では経絡は存在しないといわれます。しかし老子は「器の中に空間があってこそ器としての働きをする」と言っており、臓器を包んでいるファシアが働いている。つまり経絡は体にあるスペースだと考えられます。例えば鍼治療で血液中のエンドルフィンが増加し、鍼の効果は血圧降下、心拍調節、気道拡張など多種多様であるが、エンドルフィンの投与では鍼治療のような効果は出ません。

鍼灸の効果だけでなくツボがなんであるか説明したハーバード大のチャールズ・チャン医師は以下のように述べています。胚が成長するためには組織化が必要になります。全体とはその部品の合計以上である。人の体はそのよい例で。笑顔は全体で作られるためスマイル細胞というものはない(システム理論)。部品は全身の状況の中に置かれたときのみ、その役割を知る。発生学的発達は全体論的である(図4)。

図4.笑顔は全体で造られる(システム理論)

適切な場所での小さな変化が巨大な出来事になることが可能なことがある(カオス理論)。結節点に細胞間コミュニケーションを可能にする高度な電気的細胞間結合があるはずで、つぼは生体エネルギーの結節点である。と彼は述べています。

3.気の流れを電気の流れとした場合の共通点

東洋医学の古典では水と氣が比較されます。五行穴(井、栄、愈、経、合)という重要なツボがありますが、井穴は井戸、榮穴は湧き水、愈穴は小川、経穴は川、合穴は海にたとえられます(図5)。

図5.水が湧き川になり海に注ぐ

一方電気は、高圧なところから低圧部へと移動する=電圧、流れが動く=電流、動くことで力を生む=ワット、分離することができる=絶縁、常に経路を探して最も抵抗の少ないところを通ろうとする=電気回路、迂回できる=短絡、となり水の流れと共通点があります(図6)。

図6.電気回路

4.ツボ(経穴)とは何か

なぜここに鍼を刺すと変化が起きるのか?この変化がどのように内部臓器に伝達されるのか?いくつかのツボは、なぜ臓器に特定の影響を及ぼすのか?については以下のように説明されています。経絡上に存在するツボは生理的にも病理的にも細部内連絡が変化する場所で身体の表面にあり、はるかに強い力を持つと考えられる特定の場所が存在します。鍼灸の重要なツボは形態学的に大きく変化する領域に存在します。例えば五行穴は腕と脚のすべての経絡に存在し、水の流れにちなんだ名前が付けられています。

井穴(指とつま先の爪の始まり)
榮穴(指とつま先の水かき部分の隣)
愈穴(手首と足首)
経穴(下腿及び前腕の骨の真ん中)
合穴(肘及び膝の折り目)

つまり「経絡上に存在するツボは生理的にも病理的にも細部内連絡が変化する場所、カーブが急で複雑な場所にあります。ツボは耳(図6)、鼻、口、眼の周りに集中していますが、これらは内胚葉と外肺葉が出会う重要なスポットである」と説明されます。

図7.耳ツボ療法

身体の表面にあり、はるかに強い力を持つと考えられる特定の場所が存在し、これらの場所を始めて詳細に記録した書物が「黄帝内経」です。「鍼灸のツボは周囲の皮膚よりも電気伝導性に優れており、経絡は周囲の組織より電気伝導性に優れている」という研究もあります。

今回は抽象的な難しい話になりました。次回は筋膜のつながりと東洋医学でいう経絡の共通点について考えてみます。


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