1.ストレッチングの種類
1)バリスティックストレッチング
反動を利用して筋を伸長する方法です。反動を利用した急激な筋伸張は、筋の長さの変化を感受する筋紡錘を興奮させ、運動神経細胞を興奮させ、伸ばされた筋を反射的に収縮(伸張反射)させてしまいます。そのため現在ではほとんど使用されなくなりました。
2)スタティックストレッチング
ボブ・アンダーソンは反動を使わすゆっくりと筋を伸長し、数十秒間保持する方法を提唱した(図1)。そうすると筋腱移行部に多く存在するゴルジ腱器官が刺激を受け筋緊張が低下します。
この方法はスポーツ領域や医療・理学療法領域で広く受け入れられ効果を上げています。
しかし競技前に行うと筋出力が低下するため競技成績が低下する可能性があります。マッサージも同様の効果があるため、マッサージやストレッチング(以下ストレッチと略す)は競技や練習の終了後に緊張し疲労した筋に対して行います。
試合中に特別行うケースとして使いすぎた筋が硬くなりすぎて動かしにくくなったような場合に、一時的に筋緊張を和らげるために使われることがあります。
3)ダイナミックストレッチング
例えば大腿四頭筋を反復して使い(等張性収縮)、相反神経抑制(図2、注1)により拮抗筋であるハムストリングスの筋緊張を低下させたのち、最後にスタティックストレッチングをする方法です。
この方法はスタティックに比べ、筋出力が増加するといわれます。しかし柔軟性向上にはスタティックのほうが良いといわれ、ダイナミックストレッチングはかえって緊張を増やしてしまう可能性があります。例えばハムストリングスの緊張を緩める目的で拮抗筋である大腿四頭筋を収縮させるために、スクワットを行うと、ハムストリングスは緩むどころか収縮を起こしています。体の仕組みをよく知らないと、逆の効果が出てしまったりするので慎重に行う必要があります。
(注1)相反神経抑制とは、例えば膝を伸ばす(大腿四頭筋)ときその反対の膝を曲げる筋(ハムストリングス)の緊張が緩んでその結果スムースに膝を伸ばすことができるという体の仕組みです。
2.ストレッチの効果
*柔軟性の改善
結合組織(注2)の伸張のためには少なくとも20分引き延ばすことが必要との報告があります。
(注2)結合組織とは動物の体を構成する組織の一つで、他の組織を結びつけたり支持したりする役割を担う。
*筋緊張の低下
筋の長さが増すことで伸張反射が弱くなります。
*血液循環の改善
ストレッチ時間が長くなるほど血液量が多くなるとの報告があります。
*筋痛の改善
血液循環が改善することで、発痛物質や疼痛増強物質が抑制されます。
*競技パフォーマンスの改善
筋伸張により神経伝達が速くなり反応が速くなります。
*障害の予防
神経伝達が早くなることで、高齢者の場合転倒予防やバランス改善に役立ちます。
3.臨床におけるストレッチの適応
1)不動による問題の改善
寝たきり老人のような場合、関節はあまり動かさず筋も収縮が少ないいわゆる不動の状態になります。その結果筋は短縮、萎縮するとともに筋線維タイプが変化し、結合組織が増殖します。関節可動域の減少は、循環を悪化させ、関節の周りの浮腫を生じさせ、皮膚の状態を悪化させ痛みを発生させます。
ストレッチは関節の可動域を改善し不動による種々の問題を軽減させます。
2)痙性の減少
脳卒中のような中枢神経障害の場合筋が緊張することがあります(痙性)。そのために関節の動きが悪くならないようにストレッチが適応となります。
臨床で現れる痙性は
①脳の障害から発生する筋緊張+②その結果生じる筋緊張で筋が変性する
が加わった結果と解釈できます。
ストレッチは①の部分には影響せず②の部分を和らげることで痙性を減少させます。
3)筋の弛緩
筋の収縮と弛緩は筋細胞内でのカルシウムの出入りで起こります。そのためのエネルギー源がATP(アデノシン三リン酸)です。繰り返す筋収縮・弛緩によりATPが枯渇し筋弛緩がスムースにいかず筋が持続的に緊張状態になることで、血液循環も悪化し発痛物質が産生されます。
ストレッチは緊張筋を他動的に引き延ばすことで緊張をやわらげ循環を改善させます。
4)伸張反射の減弱
膝蓋腱を打腱器でたたくと下腿がぴんと跳ね上がるのが代表的な伸張反射です。
この反射の感受性は脳や脊髄、筋の短縮・緊張、痛み、内臓の状態などから影響を受けます。
ストレッチは筋緊張や短縮を低下させることで伸張反射の感受性を減少させます。
5)その他
ストレッチは骨格筋細胞の肥大や増殖に重要であるといわれています。
ご自分に合ったストレッチの方法を知りたい方は当院をお訪ねください。
つくば市 腰痛・痛み マッサージ・はり・運動療法
みどりの鍼灸院
次回は筋収縮様式とストレッチ効果について説明します。