
1.発痛理由
①組織損傷や炎症によって化学物質が放出され痛み刺激を引き起こしたり、痛みの感受性を高めたりします。これらの物質は神経線維の受容体に結合し痛みの信号を脳に伝えます。
②損傷を受けた組織(細胞)からはカリウムイオン(K+)、水素イオン(H+)、アデノシン三リン酸(ATP)などが流出します。
③血液中の血小板からはセロトニン、肥満細胞からはヒスタミンが放出され、血漿成分の活性化によってブラジキニン(BK)が作り出されます。
- BKは発痛作用だけでなく、プロスタグランジン(PG)やヒスタミン(His)などの放出を促進します。PGは単独では発痛作用がないもののBKの発痛作用を増強する(発痛感作)作用があります。
- 様々な化学物質による痛みだけでなく、局所の血管拡張や血漿成分の漏出による「発赤」や「腫脹」も生じます。
2.筋硬結への圧迫と鍼刺入との違い
筋硬結部を狙って鍼を刺入するとズーンという「響き」を感じることがあります。筋硬結の陳旧例、例えば腰の曲がった農家のおばーちゃんなどで腰部の筋で石のように固くなった腰方形筋などがあることがあります。この部分に針を刺すとむしろあまり響きを感じないことが良くあります。しかしこの部位を強く持続圧迫を加えると強い痛みを訴えます。

また左右の腰方形筋に腰痛を訴える人の左右の硬結を比べると硬結の少ない側が腰痛を訴えることがあります。
生体の損傷時に発痛物質が出ます。発痛物質には色々な要因が関係するのですが、そのうちで血液から生産される発痛物質があります。
血管は毛細血管になっていないと細胞(筋細胞)に酸素や栄養が届けられません。毛細血管はわずかの圧迫でつぶれてしまいます。従って石のように固くなった筋硬結部は壊死に近い組織になっていると思われ、血液がほとんど還流しておらず、血液由来の発痛物質が生産されないことが想像されます。しかし強く推すと痛みがあるのは硬くなった部分の周辺の血流がある程度あるやや硬い部分からは発痛物質が産生される可能性があります。

損傷を受けた組織(細胞)から産生されるカリウムイオン(K+)、水素イオン(H+)、アデノシン三リン酸(ATP)など、および組織損傷時の腫脹は受傷初期の現象ですので、陳旧例の場合はあまり関係しないと思われます。
筋硬結を含む筋の想定によると、硬結部の筋ゲルの周りの筋には浮腫が生じ筋緊張状態にあります。筋硬結のある筋は全体として短縮していると想定されます。この状態では血液循環は不十分ながら血流はあり血液由来の発痛物質が作られ、筋ゲルの周りは組織損傷状態に近いと考えられるので、様々な発痛要因がそろっていると思われます。
そのため強い持続圧迫では発痛物質が出ている部位を圧迫するので、痛みを訴えると考えられます。
鍼刺入は筋ゲルを部分的に機械的にかき回し、また筋ゲル周辺の循環改善の可能性が考えられます。
また交感神経が興奮すると筋肉の緊張や血管が収縮しコリが発生しプロスタグランジンやヒスタミンが滞留します。鍼刺激は視床下部に届き交感神経の興奮低下が起こりアドレナリンが減少し、血管が拡張することで痛み物質を取り除く機序も考えられます(図4.交感神経―副腎皮質系)。

3.筋硬結部の末梢神経はどうなっているか?(図5)
硬い筋硬結に鍼を刺入したときに刺入感が感じられなく、施術後2回目に刺入したときに刺入感が出てくる場合があります。硬い硬結内では末梢神経も締め付けられ麻痺した状態になっていることが推測されます。圧迫刺激や鍼により硬結の硬さが少し改善したのではないかと思われます。

4.硬い筋硬結への対策
筋硬結の発生年月の長短にかかわらず、硬結部を持続圧迫し筋ゲルをできる限り小さくすることが一番効果的と思われます。
持続圧迫は筋硬結部に刺激が入るだけでなく硬結の周囲の循環障害も刺激することができると考えられます。硬結部を持続圧迫した後で圧迫から解放すると硬結部に血液が流入する可能性があります。血液由来の鎮痛物質により痛みの軽減につながるかもしれません。
また鍼の刺入も硬結部とその周辺の循環障害部を貫くことで血液の流入が考えられます。筋硬結が古くて完全に硬結を解凍しきれない場合は、またその周りに循環障害が起きて痛み等が発生するので、定期的に手入れをする必要があるでしょう。
筋硬結が発生してからの年月の長さが短いと持続圧迫により筋ゲルは縮小度合いが強く
なり、反対に年月が経つとあまり小さくならないと考えられます。
筋硬結が古く非常に硬ければ、筋線維自体が不可逆的に変性している可能性が高いので、硬結を小さくすることにいつまでもこだわらず、硬結周辺の循環障害や浮腫改善、筋線維ストレッチング、交感神経―副腎皮質系鎮痛を目的の中心にした方がいいと思います。
次回は指圧(圧迫)について詳しく説明します。
